自分が被害者になってしまったときに誰もが困ること,驚くことのひとつが,「被害を受けた事実や犯人が誰であるかを,被害者である自分自身が説明できなければならない」ということです。
たまたま目撃者がいて証言してくれる場合でない限り,被害者自身が説明しなければ,犯罪被害が発生したことすら誰にも気付いてもらえないのです。
当然のことのようですが,自分が被害者の立場に立つと,これほど理不尽な負担はありません。
被害について話すだけでも嫌なのに,説明には「証拠」が必要だと言われてしまうからです。
だからこそ,できる限り早期に,自分で,被害や犯人についての証拠を集めておく(保全しておく)ことが大切になります。
そこで,自分で証拠集めをする具体的方法として7つの基本的方法をまとめました。
犯罪現場や犯行の瞬間,犯人の顔や姿を写真やビデオで撮影できれば,最強の証拠になります。
もっとも,実際に被害を受けている時に正面から撮影する余裕などないので,手持ちの携帯電話やスマートフォンで隙を突いた隠し撮りが精一杯でしょう。
決まった場所で何度も繰り返される犯行については,あらかじめ防犯カメラをセットしてビデオ撮影するのがベストです。
事件後に,犯人に壊された物,自分の怪我の様子,足跡や散らかった部屋の様子などをすぐに撮影しておくことも,重要な証拠保全になります。
証拠として使うためには,「誰が,いつ,どこで,何を」撮ったのかをはっきりさせておくことが大切です。
撮影日などの記録を取り,なるべく元データに近い状態で保存しておいてください。
なお,他人の隠し撮り等は,本来プライバシー侵害となる行為ですから,犯罪の証拠保全等のやむを得ない場合に限って許されると考えてください。
証拠集めとして写真・ビデオ撮影をしようとする場合の具体的な方法や注意点については,
を参照してください。
犯行時の音や犯人の声,会話などを録音することも,証拠保全の重要な手段です。
最近は,スマホのボイスレコーダーも使えますし,小さくて性能の良いICレコーダーを安価で入手できるので,犯行現場で証拠をとるなら,撮影よりもまず録音です。電話の通話録音なら危険もありません。
ただし,そもそも何を録音するか(できるか)が問題です。場合によっては,こちらから会話を仕掛けて,相手に犯罪行為を認めさせるような話術も必要になります。
録音による証拠保全の際にも,撮影の場合と同様,「誰が,いつ,どこで,何を」録音したのかをはっきりさせておくことが大切です。
録音データの保存にも注意してください。
また,ICレコーダーなどを使う際には,録音データをパソコンにコピーできる機種を選んでください。
なお,隠し録音(秘密録音)は,本来プライバシー侵害となり得る行為ですから,犯罪の証拠保全等やむを得ない場合に限って行うようにしてください。
犯人との間のメールやLINE,着信・通話の履歴などは,すべて消さずに残しておいてください。
うまくデータを保存できないときは,表示した画面をデジカメで撮影して,写真に残して下さい。
そのほか,犯罪や犯人に関係のある資料(証拠物)は,手元に保管できるなら捨てずにすべて保管し,それができなければ写真撮影やコピーを取るなどして保存してください。
たとえば,詐欺師に差し出された名刺や煙草の吸い殻を取っておいたことで,犯人の指紋やDNAを検出できて逮捕につながることもあります。
犯罪で怪我を負わされたときは,すぐに病院に行って診察を受け,診断書を発行してもらってください。
診断書は,多くの場合に,極めて有効な証拠です。診断書を実際に使うかどうかなんて,後から考えればいいことです。
とにかくすぐに診察を受けておかないと,怪我が治ってからでは,怪我をした事実すら証明できなくなってしまいます。
最低限,医師の診察だけは受けてください。カルテが残ります。
どうしてもそれができなかったときは,日付が分かるようにして怪我の写真を撮っておいてください。
どうしても客観的な証拠が残らない(残せない)ような事件もあります。
そういう場合,せめて信頼できる第三者に相談しておいてください。後で証人になってもらえることがあります。
ただし,事件直後の相談でないとそもそも信用されにくいですし,身内の証言は信用度が低くなります。
また,証言に協力してくれない人に相談していても,証拠にはなりません。
したがって,事件直後に,できる限り客観的な立場の複数名に相談しておくことが必要になります。
弁護士相談も有効です。また,警察への相談は,警官が証人になるわけではありませんが,第三者への相談の中でも別格に有効な証拠となります。
警察に相談したうえで被害届を提出して受理されれば,それだけでも強力な証拠になります。
警察は,被害を受けたことが疑わしい場合や証拠が少なすぎる場合は,そもそも被害届を受理しません。警察に被害届が受理されているということは,一応その被害が本当らしいという推測が成り立つのです。
被害届は後から取下げることも可能ですから,犯罪被害を受けて警察への相談をしたときは,できるだけ被害届を出しておくほうがいいでしょう。
なお,告訴と違って,被害届は単に被害の事実を警察に申告するだけで,犯人を処罰してほしいという意味はありません。
とにかく証拠がない,相談できる人もいない,警察に行くのも怖いなどといった八方ふさがりの状態になってしまったときは,最低限度,犯罪被害を受けた状況を日記につけるか,メモに書いて残してください。
日記やメモは後からでも作れてしまうので,そのとき起こった事実を証明するためには,かなり弱い証拠です。
しかし,最低限,犯人の特徴や出来事の日時や順序などの細かな事実関係を忘れないようにすることができます。また,いつも日記をつけている人であれば,全体として本当のことを書いているという証拠になる場合もあります。
何も無いよりは,ずっと良いのです。