弁護士のよく使う法律用語が,世間一般に使われている言葉と違うことがよくあります。
法律相談などでお話しするときには,できるだけ気をつけて普通の言葉に言い換えているのですが,時々ぽろっとそのまま出てしまいます。
弁護士として,誰にでもわかりやすい話し方を心がけたいですから,一般の方々に伝わりにくい用語の存在に気付いたら,その都度,心にとめておくようにしています。
といっても,明らかに難しい言葉の使い方で困るようなことはありません。難しい専門用語ほど,普段から説明し慣れているからです。
たとえば,「瑕疵(かし)」とは,通常は無いはずの欠点や欠陥のことで,傷や過失を意味することもあります。法律の中に「瑕疵担保責任」とか「隠れたる瑕疵」という用語が出てくるので,説明を避けて通れないことがあるのですが,こういう言葉はそれほど問題になりません。
困ることが多いのは,読み方だけが普通と違う法律用語や,漢字を見ればすぐにわかるけど普段はあまり使わない言葉,別の言い方が一般的に受け入れられている場合などです。
たとえば,「遺言」は,普通に読む場合は「ゆいごん」ですが,法律家は「いごん」と言います。この種の専門用語は「こいつ,弁護士のくせに漢字の読み方も知らんのか」と誤解されることもあり,気をつけなければいけません。
耳で聞いただけだと一瞬とまどう言葉の例は,「しりょく」ですね。
これは,勝訴判決の効力や法テラスの審査,国選弁護の説明などで必ずと言っていいほど出てきます。
漢字で書くと「資力」です。文字を見れば,資金力,要するにお金や資産などの経済力があるかどうかだということはすぐに分かります。
ところが,日常会話ではあまり出てこないので,はじめて聞くと分かりにくい言葉です。
また,「被疑者」は,より一般的な言葉の「容疑者」に,「接見」は「面会」に言い換えないと,最初はうまく伝わらないことがあります。
なんにせよ,打ち合わせでなら,いくらでも説明できます。
恥ずかしいのは,見ず知らずの人にたまたま会話を聞かれて,誤解されてしまうときです。
たとえば,ちょうど西川口駅(川口警察署の最寄り駅)を通過する電車の中での弁護士同士の会話。
「そういえば,昨日の夜は西川口で降りて『接見』に行ったんだけどさ。」
「おっ,どうだった?」
「それが,まだ女子高生で,ウブな感じでね。こんなところは初めてなんだって。もちろん,ばっちり『否認』だよ。」
「いいじゃない。やりがいあるでしょ。」
「まぁね。忙しいんだけど,つい『また明日も来るからね』って約束しちゃったよ。疲れてるけど,今日も頑張って帰りに寄るつもり……」
この辺りで,はっと気がついたときには時既に遅し。数人から痛い視線を浴びることになります。
※西川口は風俗店が多いことでも有名です。「石鹸」だの「避妊」だの,電車の中で滅多なことを言うもんじゃありません。
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