真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(1)

ブラック社員には2種類ある

「ブラック企業」ブーム(?)に続いて,今「ブラック社員」という言葉が広まりつつあります。

しかし,「ブラック企業」と違って,「ブラック社員」の定義は,かなり曖昧です。

ブラック社員と呼ばれる存在は少なくとも2種類に分けられ,両者は全く異なります。

 

ブラック社員という言葉の発生の元になったのは,ブラック企業とセットで語られる従業員,言わば「元祖ブラック社員」です。

彼らは,彼ら自身がブラックなのではなく,ブラック企業の中で一生懸命に働いてしまう結果,ほかの普通の社員やアルバイトにブラックな影響を与えてしまう人です。

 

これと正反対なのが,「真のブラック社員」です。

彼らは,ブラック企業ではなく,ごく普通の(ホワイトな)企業の中に潜伏しており,あるとき突然に牙をむいて,自分の会社や他の社員を地獄に落とします。これこそ,本当の意味でブラックな社員です。

 

今のところ,この2種類を世間はまだ区別できておらず,自分が想像する片方の「ブラック社員」についてだけ議論している人が多いようです。

元祖ブラック社員とは?

ちまたで言われる「元祖ブラック社員」とは,ブラック企業で現場の先兵として働く熱心な従業員のことです。

 

彼らは,第三者から見ればブラックとしか思えない企業・経営者の方針に心酔しており,自分の仕事に夢を抱き,会社(ブラック企業)に尽くしています。

そのため,誰よりも彼ら自身が,自己実現に燃えて,心身の限界まで長時間(かつ,場合によっては低賃金で)働きます。通常,彼らはそれが良いことだと信じています。

それと同時に,彼らは現場のリーダーとして,会社のために,自分の部下の社員やパートやアルバイトを,自分と同じように心身の限界まで働かせようとします。そのことに悪意はありません(ここで言う悪意は,「他者に対する害意」のことです)。

 

ただし,彼らの熱意ある仕事の結果として,ごく普通に働きたかっただけのほかの社員やアルバイトは,昇格も昇給もおよそ見込めないのに,長時間・低賃金の労働で酷使され,ぼろぼろになって,いずれ使い捨てられてしまうのです。

こうして,ブラック企業が成立します。

ブラック企業の責任転嫁

本来,彼ら(元祖ブラック社員)を,「ブラック社員」などと呼ぶのは間違いです。

 

確かに,彼らの存在こそがブラック企業を支えています。それは事実ですし,ブラック企業の実態を解明するための指摘としては当たっています。

もとより,ブラック企業の被害者である普通の社員やアルバイトにとっては,この「元祖ブラック社員」たちこそ,自分を酷使した張本人の上司なのですから,憎しみの対象でもあるでしょう。

しかし,自己実現のために必死に働く元祖ブラック社員たちは,本質的に彼ら自身がブラックなのではありません。ブラックなのは,あくまでも企業本体であり,会社経営陣(かなりの確率でワンマン経営者その人)なのです。

彼らのような自己実現に燃えた一部社員を利用して(作り出して),その他大勢の社員・アルバイトを意図的に短期で使い捨てにしようとする特定の企業の経営方針こそが「ブラック」なのです。

悪意(害意)のない元祖ブラック社員たちに責任を転嫁するようなことばかりを言えば,ブラック企業本体やその経営者の責任が曖昧になってしまいます。

 

さて,もうひとつのブラック社員,本当に怖い「真のブラック社員」とは,どういう人たちでしょうか?

次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(2)」に続きます。