前回(真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(2)参照),真のブラック社員の特徴と,典型的な誕生のきっかけについてお話ししました。
今回は,真のブラック社員による別のリスク例や,元祖ブラック社員との比較についてご説明します。
真のブラック社員による顧客情報流出,流用
真のブラック社員のもたらすリスクについて,別の例を見てみましょう。
彼らは,会社内での出世を諦めている分,常に,何か別の楽チンな方法でお金を稼ぎたいと考えています。
個人的にFXやもっと危険なバクチ行為に手を出して失敗したり,会社に内緒で副業をしたりするくらいなら大したことではなく,せいぜい「予備軍」のままにすぎません。
しかし,会社内に彼らを誘惑する甘い環境があると,あるとき真のブラック社員に堕ちてしまうことがあります。
たとえば,真のブラック社員は,自分の会社の顧客データをUSBメモリにコピーして,こっそり持ち出します。それを名簿業者に売って,小遣い稼ぎをします。クリックひとつでコピーできるため,なかなか証拠が残らず,犯人の特定が困難です。
もし顧客情報流出が発覚すれば,企業の受ける社会的ダメージは計り知れません。
もっとも,こんな初歩的なやり方をするのは,「真のブラック社員」の中でも低レベルな初級者です。
より賢い(悪質な)ブラック社員上級者は,盗んだ名簿データを闇業者なんかに売りません。それではかえって足がつくと分かっているからです。
では,どうするのか?
彼らは,自分が副業で行っているネット通販ビジネスの販路拡大のために,持ち出した顧客名簿を流用してしまいます。最悪の場合,自社の顧客に対して,自社と競合する商品を,自社よりも安い金額で直接売り込みます。
つまり,自社のAという商品を月額5000円で定期購入している優良見込み客に対して,自分が副業で取り扱っているAと同等のライバル商品Bを,自社よりお得な月額4500円で定期購入するよう働きかけるのです。
しかも,彼らは,通販営業のために電話やDM(ダイレクトメール)なんて使いません。盗んだ顧客データの中のメールアドレスだけを抽出し,大量の広告メールを自動送信するのです。お金もかからないし,足もつきにくいからです。
実際,真のブラック社員のこうした巧妙な手口は,会社が原因不明の顧客離れで末期状態になってはじめて発覚する,というこもとあり得ます。
自分勝手な理由で上司や会社を攻撃し,ときには自分の利益のためにだけ会社を利用する。
これこそが,企業を食いつぶす「真のブラック社員」の姿です。
「元祖ブラック社員」と「真のブラック社員」の比較
ブラック企業で自己実現のため必死に働く「元祖ブラック社員」と,会社を食い物にする「真のブラック社員」とは,似ても似つかない正反対の存在です。
それでも,類似点を2つほど見出すことができます。
ひとつは,彼らの悪影響が社内(ほかの社員やアルバイトたち)に伝播して,企業全体を蝕むことです。
もうひとつは,彼らに自覚的な悪意がないことです。
ひとつめの共通点,伝播性。
まず,「元祖ブラック社員」が,その性質上周囲を巻き込むのは当然です。彼らは,それゆえにこそ「ブラック」と揶揄されるわけです。
一方,「真のブラック社員」の悪影響も伝染します。たとえば,彼らは会社で仕事をするのが大嫌いですから,自己正当化のために周囲の足を引っ張り,社内に自分同様の怠け者集団を形成することで,社内での居心地を良くしようとします。
会社が対策を取らず,何かにつけて「うまくやろうとする」彼らの言動を放置すると,会社への帰属意識や勤労意欲の低下が社内にジワジワと浸透していき,いずれすべての従業員が感染します。
では,ふたつめの共通点。自覚的悪意がないとは,どういうことでしょうか。
実は,真のブラック社員がどれほど会社の利益を害する悪事を働いたとしても,当の本人には,必ずしも悪意がありません。ただし,ここで言う悪意とは,「他者に対する害意」ではなく,「本人が悪いと思っているかどうか」です。
真のブラック社員は,自分の行為が他者(会社や上司等)を害する結果になることは,さすがに分かっています。その意味で,他者に対する害意は確実にあります。誰も傷つけるつもりのない元祖ブラック社員とは違います。
しかし,その一方で,真のブラック社員は「自分自身を守るためなら,他人(会社や上司)の利益を犠牲にすることは,正当な行為である」と信じています。そのような考え方をしやすい人であることが,「予備軍」たる条件なのです。
そのため,会社や上司を傷つける行為にも「悪いという意識」(自覚的な悪意)がないのです。
もちろん,このような「真のブラック社員」が生まれてしまうのには,それなりの理由があります。
次回,「真のブラック社員とは?-企業を蝕む獅子身中の虫(4)」に続きます。
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