マジカルナンバー7(マジックナンバー7)という話を聞いたことがあるでしょうか。
人間が複数の対象を同時に短期(短時間)記憶するのは,7個(プラスマイナス2個)が限界だという趣旨の学説のことです。要するに,人が何かの絵や記号や数字をぱっと見せられたとき,一瞬で覚えられるのは5個~9個までだということです。
この説は,比較的最近まで心理学上の常識扱いされていました。
私が大学で心理学の講義を受けていたときも,マジカルナンバー7についての解説がありました。そのときは割と大きめの教室での授業で,学生が5~60人くらいいたと思います。ひと通りの解説を終えると,教授が「じゃあ,簡単な実験をしてみましょう。皆さん,協力してください。」と言い始めました。
- まず,教授がランダムな数字をいくつか口にして,学生はそれを頭で記憶します。メモはできません。
- 少し別の話を挟んで時間をおいてから,教授が学生に数字を思い出すように指示します。学生は頭の中で数字を再生します。
- 教授が先に言った数字をもう一度口にして,学生は自分の記憶が正しかったかどうかを確認します。
- 正しく記憶・再生できた学生は,挙手します。
この方法で,教授は,数字を5個覚える場合,7個の場合,9個の場合,11個の場合と続けました。5個では7~8割くらいの学生が挙手し,7個では4~5割くらい,9個では1割くらいの学生が挙手しました。11個になったとき,挙手したのは私1人でした。
教授は,「今年は,一人いたか。」とつぶやきました。
次に教授は,覚えた数字を逆再生するように指示しました。
さっきまでよりも難易度が高くなり,覚えられる(再生できる)数字の数も少なくなるはずです。
すると,5個,7個ではさっきと同じくらいでしたが,9個では2割くらいの学生が挙手しました。11個になったとき,私を含む4~5人くらいが挙手していました。
教授は,「まさか,さっきより増えるとは……」と,首をひねっていました。
実験の難易度が上がったのに学生の正解率が有意に増えたことが,理論的に説明のつかない現象だったからです。
しかし,教授には理解できなかったその現象の原因が,私にはすぐにわかりました。考えられる理由は3つありました。
第1に,「逆再生」という実験のほうが学生にとって面白そうな内容だったから。
第2に,大教室の隅で寝ていた学生の一部が,目を覚まして途中参加したから。
第3に,一番考えられる理由として,最初の実験の11個のときに学生(私)が1人だけ正解したのを見て,プライドの高い一部の学生が競争心を刺激されたから,です。
教授が,マジカルナンバー7という心理学上の学説理論から考えるのではなく,目の前の学生たちの現実の心の動きから考えていれば,それは心理学的にも十分説明のつく結果だったはずです。
現実世界を理論や学問だけで判断するのはやめようと思った瞬間でした。
訴訟でも,学者や医師,研究者などの専門家が証人になることがあります。証拠物の鑑定をした鑑定人を尋問する場面などが典型的です。
専門家の証言なので,さすがに理論的には正しいことがほとんどです。
しかし,結果は間違っていることがある。あるいは,鑑定人によって結論が分かれてしまうこともある。
間違いの起こる最大の理由は,理論のあてはめに終始して,現実世界での大局的な判断をしていないことです。
ちなみに,最近の研究では,マジカルナンバー7は間違いで,マジカルナンバー4プラスマイナス1(3~5)が正しいとも言われています。
科学は絶対ではないし,日々進歩(変化)もするのです。
専門家証人が間違えるもう一つの理由は,これです。
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