相続事件を扱う弁護士の間でよく話題になるのが,「(共同)相続人の不思議な心理」についてです。
共同相続人(相続人が複数いる場合)は,ほとんどが親族です。
しかし,弁護士が介入するような相続紛争においては,血を分けた親族同士が,文字通りの骨肉の争いを繰り広げることがあります。
しかも,その立場になったことのない者には想像もつかない形で。
最大の特徴は,自分がいくら受け取れるのかではなく,とにかく「きっちり分ける」ことのほうが重視される,という傾向です。
不思議なことに,争われている分割対象財産が数億円規模でも数百万円程でも,その傾向は変わりません。
分かりやすく簡略化したモデルで言うと,こういうことです。
共同相続人としてAさん,Bさん,Cさんがいるとします。分割対象となる遺産は1億円です。
法定相続分は1/3ずつですが,遺言の解釈や寄与分,特別受益などの様々な事情から,Aさんが4000万円,Bさんが3000万円,Cさんが3000万円という案が出ています。
これに対して,Bさんは納得してますが,CさんがAさんに対する不満を述べていて,協議が成立しません。
この場面で,AさんがCさんに譲歩して,Aさん3500万円,Bさんが3000万円,Cさんが3500万円ということにしようとすると,たとえCさんが納得しても,今度は何故かBさんが不満を述べます。
Bさんにとって,Aさんの受取額が高くなるのは納得できても,Cさんが自分よりも高くなることは不公平で納得がいかないというのです。
それどころか,何故か金額の増えたCさんが拒否することもあります。
Cさんからすると,平等に1/3ずつ分割すべきであって,AさんとCさんだけで多い分を分け合うなんて不公平で許されないというのです。
もちろん,1/3ずつにすると一人につき約3333万3333円ですから,Cさんの取り分はAさんの譲歩案を受け入れた場合よりも減ります。それでも,Cさんの意見は変わりません。とにかく公平に分割すべきだ,という主張です。
ときには,本当に1円単位まで不満が出ます。
1/3ずつ平等に分割する案で合意しようとすると1円が余りますね。それを誰が取得するのか?
1円なんて,金額としては誰にとっても本当にどうでもいいことだと,みんなが分かっています。
それでも,たとえばその1円をAさんが取得しようとすると,Cさんは,「なんでAの評価がオレたちより高くなるのか。Aじゃなきゃいけないのか。」と反発します。
この不思議な相続人の心理を説明できる心理学実験があります。
ただ実験に参加するだけで,ほとんど何もしなくても本当にお金がもらえるという夢のような話です。
1回の実験参加者は2名です。
心理学者は,参加者のうち,くじ引きで選ばれた1名に1万円(の権利)を渡し,それをもう1名の参加者と分け合ってもらいます。
2名のどちらがいくらをもらうかは,1万円を渡された参加者が決められます。
もう1名がその決定を承諾すれば,2名とも,決められた金額を受け取ってすぐに家に帰れます。
ただし,もう1名が受け取りを拒否した場合は,2名ともお金を受け取ることが出きず,そのまま家に帰されます。
さあ,自分も実験に参加したつもりで,自分がどちらの立場になったときに,どう行動するか,考えてみてください。
~ 「公平な相続とは何か?(2)」 へ続く
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