無料相談の真実

以前,この『法律夜話』のブログに「弁護士の法律相談料は,占い師の見料と同じだ」という話を書いたのですが(「法律相談,わかんねェだろうナ。いぇ~い。」参照),おもしろい観点だと評価してくださる方と,「んなわけねーだろ!」と怒る方(弁護士)に分かれました。

 

占い師との比較はともかく,法律相談料については,ご相談者側にも弁護士側にも色々な意見があるようです。

特に,最近は「無料相談」をする弁護士や法律事務所が増えてきて,ご相談者の皆様も,まずは無料で相談できるところを探すという方が多くなってきたように思います。

 

やっぱり,30分5000円とか1時間1万円とかいった料金は,決して安くはないですよね。

 

でも,ご相談者の方に「高い」と感じさせてしまうのは,弁護士の法律相談技術の不足という場合もあります。

専門性の高い弁護士による適切な法律相談を受けることにより,相談だけで事件を解決できてしまったり,解決へのヒントが得られたりすれば,決して法律相談が「高い」とは感じないはずです。

 

 

一方,確かに無料相談は増えていますが,実は「無料」にも2種類あります。

 

1つは,弁護士にとっても本当にタダ働きになるような無料相談です。ご相談者はもちろん,ほかの誰からも費用が払われません。

 

弁護士が,ボランティア活動として法律相談をすることはあります。顧客サービスとしての無料相談もあります。それは一向に構いません。

しかし,職業,仕事としての本来の法律相談は,ボランティアでも単なるサービスでもありません。それ自体がプロフェッショナルな技術なんです。

すべての(初回)法律相談を無料にしている弁護士や法律事務所もありますが(弁護士以外の士業でも同じですが),当然,その相談から事件を受任できない限り収入に結びつきません。

そういった無料法律相談は,途中で「これは受任につながらない」と分かってしまった時,はたしてどうなるのでしょうか?

……時々,こういった鋭い質問を受けます。

 

私自身は,無料だろうが何だろうが相談を引き受けた以上,最後の最後まで真剣に回答します。「事件に区別なし」は,私の弁護士としての原点のひとつですから(「3つのルール」参照),断言できます。言えば言うほど嘘っぽくなるのでこれくらいでやめときますけど,本当です。

そして,私が信頼を寄せる仲間の弁護士たちなら,たぶん同じように考えるだろうと思います。だから,無料が全部ダメなんてことはありません。

なので,それほど気にしなくてもいいんじゃないでしょうか?

 

……でも,私自身はとっても疑り深い性格なので,もし自分が本当に困って弁護士に相談する立場になったとしたら,知らない弁護士がタダ働きでやっているような法律相談なんて,怖くて受けられないかもしれません。

 

 

もう1つの無料相談は,ご相談者が無料なだけで,弁護士には相談料が入ってくるタイプです。

地域や組織などによって違いますが,今の埼玉の場合,市役所や区役所での相談とか弁護士会での相談などの一定割合が,ご相談者は無料でも弁護士には後から費用が支払われるタイプの無料相談です。

法テラス(日本司法支援センター)の民事扶助制度を利用した無料相談の場合も,これに当たります(法テラスから弁護士に相談料が払われます)。

この場合は,無料相談とは言いながらも,弁護士による助言行為が専門的技術として一定の評価を受けています。相談で事件を受任しなくても,それは変わりません。

先ほどの鋭い質問に,誰でも堂々と「大丈夫!」と答えられるわけですね。

 

もし私だったら,同じ無料相談なら,せめてコチラを選ぶかなぁ。

 

 

……ただ,通常のご相談者にとっては,その無料相談で弁護士に費用が払われているかどうかなんて,まったく分かりません。

しかも,こういうタイプの(弁護士に報酬の入る)無料相談の割合は,今,どんどん減ってきています。

一般の方々は無料相談に2種類あるというカラクリを知りませんから,同じように弁護士の法律相談を受けられるなら,無料がいいと思うのは当然です。

 

けれども,弁護士が増えて選択肢が増えてきた結果,どの弁護士のどういう相談を受けてどういう結果になるか,すべてご相談者の自己責任ということになりかねないのです。

真実を知らないまま選択を誤ることがないように,十分気をつけてください。

 

 

 

ちなみに,弁護士にはお医者さんのような国民の税金をつぎ込んだ保険制度がありませんから,法律相談が高すぎるというのは,本当は間違いです。

皆さんが風邪でお医者さんにかかって,30分の待ち時間,初診料込み3割負担で計3000円を支払ったとすると,実際には,たった3分の診察でも医療費は1万円です。

30分5000円の法律相談とは,比べものにならないくらい高いのです。

 

 

また,これも最近ですが,「弁護士保険」が少しずつ広がってきています。

今はほとんどが交通事故の任意保険の特約ですが,ついに一般民事事件の弁護士保険も出てきました。

私も,これまでに弁護士保険制度を利用したご相談や受任を実際に行っています。

まだ多少使いにくい部分もありますが,利用価値の高い制度です。

 

ただ,弁護士保険制度には,保険契約時は気付きにくい大きなリスクがあります。

それは,保険会社は弁護士費用を払ってくれるだけで,適切な弁護士を探してくれるわけではない,ということです。

LACなどの弁護士会を通じた紹介制度等もありますが,基本的には名簿順に名前を教えてくれるだけなのです。

本当に自分に合った良い弁護士を探そうと思ったら,その都度,ご自身で見つけ出して,法律相談して,契約しないといけません。

 

この面倒とリスクを避けられる唯一の選択肢が,自分の顧問弁護士を持つことです。

 

 

かかりつけの医師を持つように信頼できる顧問弁護士を持ち,また,保険を使うよりもずっと気軽に「無料」で質の高い法律相談を受けられる……。

そんな自分だけの顧問弁護士というスタイルが,もっともっと世の中に広がっていくといいなと思います。