弁護士として,皆さんから最も多く受ける質問なのに,実は最も答えにくい質問というのがあります。これです。
「先生のご専門は?」
この質問,日本の弁護士の圧倒的多数は,うまく答えられません。
……などという話をすると,今度は,
「え!? なんで専門分野を答えられないの? 嘘でしょ? ないの?」
とか言われたりして……。
嘘じゃありません。
医師と異なり,弁護士は専門分野に分かれていません。
特定の分野の特定の弁護士を除くと,多くの弁護士は「何でも屋」です。
医師の世界でも,大学病院などの専門分野に特化したお医者さんと対比して,地域に根ざして近所の住民の病気を何でも看てくれるお医者さんを,「町医者」と呼ぶことがありますね。
同じように,地域住民の法律問題を何でも取り扱う弁護士を「町弁」と呼んでいます。
そして,それが弁護士の多数派です。
何でも取り扱う町弁が,あえて専門分野を尋ねられると,非常に答えにくいのです。
(ちなみに,特定の分野の代表格は,国際取引や大企業相手の仕事しかしない渉外企業法務系の弁護士です。私たち庶民が彼らを肉眼で見ると目がつぶれるという言い伝えがありますので,決して関わらないようにしましょう。)
「でも,最近は○○専門という弁護士や法律事務所のホームページも多いじゃないか」
と思われるかもしれません。
その通りです。
だって,自分で「専門」を名乗ることは誰にでも出来ますから。
「専門」を名乗るだけなら,別に裏付けとなる知識や経験は必要ないのです。
いつでも誰でもすぐにでも可能です。
実際,弁護士になったばかりの新人や,まだ経験の少ない若手の集まった法律事務所が,「○○専門」というホームページを同時にいくつも立ち上げてウェブで集客することが,今は当たり前になっています。
そういう問題があるので,日弁連では全国の弁護士に対し,原則として「専門」という表記や広告を避けるよう指導しています。
もちろん,取扱分野をあえて狭く限定して実績を積んでいるとか,弁護士としての実務経験に即して特定の分野での優位性に十分な理由があるなら,「専門」を名乗るのに何も問題ありません。大切なのは,常に勉強し続ける姿勢です。若手だろうが何だろうが,特定の分野だろうが幅広い分野だろうが,努力し続ける者なら,いずれ本物の専門性を獲得します。
ただ,そういった根拠ある専門性の有無を誰が保障してくれるのか,顧客側にその判断ができるのかが,大きな問題になります。
ここ法律夜話は,話の分かる大人のためのブログなので,思っていることをそのまま書きます。
弁護士以外の人が弁護士の専門性を適切に判断するのは,現時点で,ほぼ無理だと思います(分かる場合もありますが,常に分かるわけではないという意味で)。
いくつもの弁護士のHPを見比べてみるほど,余計にそう思います。
特に,弁護士や法律事務所の比較サイトは,まったく使い物になりません。
そして,続けてこうも考えるのです。
「私も,法律以外の分野で商品や取引先や専門家を選ぼうとするとき,同じようにホームページや比較サイトを頼って探したり比較したりしているけど,それって,その分野のプロ中のプロの立場から見ると,きっと,ものすごく不適切で,あてずっぽうで,危険な選び方をしているんだろうなぁ……。」
本当に信頼できる専門家を探すというのは,誰にとっても難しいですね。
弁護士だって(弁護士が別の分野の専門家を探すときだって)同じなんです。
この分野ならこの人と思う知り合いがいればいいのですが,大抵は,必要になったときにはじめて,場当たり的に,「どうしよう,どこにしよう,誰にしよう……」と,右も左も分からず悩みながら,おっかなびっくり探すんです。
怖いことです。恐ろしいことです。
おぉ神よ。彼を救い給え!
(ライラ ライラ ライラ ライ……)
本物の専門家を真剣に探している皆様に,どうすれば適切に自分の専門性を伝えることが出来るのか?
これからもずっと悩みながら,この法律夜話や事務所ホームページ等での情報提供の仕方について,工夫していきたいと思います。
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