現行犯逮捕の要件として,その人が現行犯人であること,または準現行犯人に当たることが必要です。
逮捕状は必要ありません。
現行犯人とは,現に犯罪を行っている者か,今まさに犯罪を行い終わった者です。
これは常識的にも分かりやすいと思います。
そして,現行犯人であれば,警察官ではなく私人であっても逮捕できます。
では,準現行犯人とはどういう場合でしょうか。
法律に書かれた準現行犯人の要件は,次のどれかに当たる人であって,かつ,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合です(刑訴法212条2項)。
(1) 「あいつが犯人だー!」と名指しされているとき
(「犯人として追呼されているとき」)
(2) 盗まれた被害品や拳銃などの凶器を手に持っているとき
(「賍物または明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持しているとき」)
(3) 返り血を浴びていたり,強盗防止のカラーボールをぶつけられた跡があったりするとき
(「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」)
(4) 「誰だ!?」と叫ばれ,思わず逃げ出したとき
(「誰何(すいか)されて逃走しようとするとき」)
こうした準現行犯人に関する法律は,憲法の認める逮捕の基準を法律で無理に広げている面があります。
そのため,憲法違反の疑いも強いのですが,実務上は許されています。
また,準現行犯人についても,私人による現行犯逮捕が許されています。
加えて,現行犯逮捕の場合でも,通常逮捕の場合と同じ,逮捕の「理由」と「必要性」が必要です。
まず,現行犯人または準現行犯人である場合,罪を犯したという疑い(嫌疑)が非常に強い状況にありますから,逮捕の「理由」は,かなりはっきりしていることになります。
少し問題なのは,逮捕の「必要性」です。
逮捕状がなくても,私人でも逮捕できてしまうという現行犯逮捕は,通常逮捕よりも必要性が強い場合でなければなりません。
もっとも,現行犯人や準現行犯人の状況は,ほっておくと逃げてしまう可能性が高いと思われるでしょうから,普通は逮捕の必要性があることになるでしょう。
一定の軽い罪に対する現行犯逮捕は,その人の住居もしくは氏名が明らかでない場合,または逃げてしまう危険がある場合に限って許されることにしています。
現行犯逮捕の場合よりも,軽微犯罪の逮捕の要件が少し厳しくされていることに,お気づきでしょうか。
これも,逮捕状のいらない現行犯逮捕のほうが,通常逮捕よりも必要性が強く要求されているからなのです。
なお,一定の軽い罪とは,「30万円以下の罰金,拘留または科料に当たる罪」です(217条)。
たとえば,過失傷害罪,侮辱罪,軽犯罪法違反の罪などがそうです。
逆に言えば,一定の軽い罪については,自分の住所と氏名を明らかにしたうえで,逃げるつもりがないことをはっきりさせることができれば,現行犯逮捕はされないことになります。
もし逮捕されてしまった場合でも,その逮捕は違法なのです。
これも是非,覚えておいてください。