逮捕された被疑者が最初にどうなるか,思い出してください。
警察から逮捕容疑の内容を簡単に伝えられ,「お前には弁護人を選任する権利があるからな。」などと言われて,すぐに取調べが始まるのでしたね。
ただ,いきなり「弁護人を選任できるぞ」とだけ言われても,たまたま知り合いに弁護士がいるのでない限り,普通の人は,どうやったら弁護人を選任できるのかがわからないでしょう。
意地の悪い警察官だと,それ以上のことをなかなか教えてくれないこともあります。
法律では,知り合いの弁護士がいない人が弁護人をつけたいと言えば,警察はその地域の弁護士会に連絡を入れることになっています。
連絡を受けた弁護士会は,その人に紹介できる弁護士をすぐに派遣します。
しかし,被疑者本人が,
「知り合いの弁護士がいないから,弁護人を選任できると言われても,一体どうしたらいいんだろう」
などと思って何も言わないでいると,警察では,弁護士会への連絡すらしてくれないことがあります。
「弁護人を付けたい」と言わなかったから悪いんだ,と言う警察官もいるのです。
とにかく早く弁護士を呼んでもらい,その弁護士と今後のことをよく相談することが大事です。
その場合,留置場の係員か取調べの警察官や検察官に対して,「弁護士を呼んでくれ」と言えば十分です。しかし,何も言わないとダメなのです。
なお,各地の弁護士会では,ボランティアの当番弁護士が1回無料で接見してくれますので,まずは「当番弁護士を呼んでください」と言うのがおすすめです。
「弁護士を呼んでくれ」とだけ言った場合にも,実際には,弁護士会から当番弁護士が派遣されることが多いでしょう。
警察は,もちろん当番弁護士制度のことを知っていますが,警察のほうから先に当番弁護士制度の説明をしてくれることは,ほとんどありません(地域によって多少違います)。
当番弁護士という制度があると知っているだけでも,その分だけ有利になります。
なお,家族が当番弁護士を頼みたい場合は,その人が捕まっている警察署のある地域の弁護士会に,直接電話してください。
もっとも,当番弁護士や弁護士会の紹介する弁護士は,どんな人が来るかわかりません。
ほとんどの場合,名簿順でその日の担当者が来ることになります。
したがって,必ずしも刑事弁護に詳しい人が来てくれるとは限りません。
逮捕後,最初に弁護士から受けるアドバイス次第で,勾留されるかどうかが決まってしまうかもしれないし,後から撤回できないような間違った供述調書を作成されてしまうかもしれません。
ですから,家族や友人が逮捕されてしまったときは,できる限り急いで刑事事件を多く扱っている弁護士を探し,その弁護士に弁護を依頼するのがベストです。
依頼された弁護士は,すぐに被疑者に会いに行き,家族からの伝言を伝え,被疑者の事情に応じた適切なアドバイスをすることができます。
逮捕されてから勾留されるまでの間には,国選弁護制度はありません。
現在,国選弁護制度があるのは,一定の重さ以上の犯罪で勾留された被疑者と,起訴された被告人についてだけです。
一定の重さ以上の犯罪とは,「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁錮に当たる事件」です(刑訴法37条の2)。
以前と比べると,かなり多くの事件で被疑者国選弁護人をつけることができるようになっています。
しかし,たとえば,公務執行妨害罪,住居侵入罪,暴行罪,脅迫罪,名誉毀損罪,器物損壊罪などは,3年以下の懲役しか定められていないので,被疑者国選弁護人は選任できません。
もっとも,国選弁護人制度ではありませんが,弁護士費用が払えない人でも私選弁護人を付けられるように,弁護士会の被疑者弁護援助制度(勾留前援助)を利用できることになっています。
お金がなくても,私選弁護人を付けることを最初からあきらめる必要はありません。
とにかく刑事弁護を得意とする弁護士を探して,まずは相談してみましょう。