逮捕の際の報道では「容疑者」と呼ばれていたはずなのに,同じ事件の裁判の報道になると,同じ人のことなのに,いつのまにか容疑者とは言わなくなっています。どうしてでしょうか。
逮捕・勾留された被疑者が,検察官によって起訴され,裁判を受けることになると,同じ人でも「被告人」という呼び方に変わります。
法律上,被疑者は警察官や検察官の捜査対象者でしたが,被告人は裁判において検察官と対等に向かい合う当事者となります。
同じ人だけれども,法律上の立場が全然変わるのです。
「被告人」のことを,マスコミ用語で「被告」と言っています。
しかし,法律上,「被告」は民事裁判のときにだけ使う言葉です(「原告」に対する「被告」です)。刑事裁判に,被告は一切登場しません。
したがって,刑事裁判の被告人を被告と呼ぶのは単純に間違いなのですが,マスコミは長年の自分たちの間違いを認めたくないので,いまだに「被告」と言い続けているのです。
情けないことです。
そんなマスコミのせいなのですが,民事裁判で訴えられた人が,原告に対して,「あいつ,俺を『被告』にしやがって!」と言って怒っていることがあります。
お気持ちはよくわかりますが,いろいろな意味で誤解です。