犯罪被害を受けてしまったとき,被害者の身体や財産に生じる直接的な被害結果以上に,真っ先に襲ってくるのが精神的ショックです。パニックで何も考えられないような状態になります。
しかし,そんなときだからこそ落ち着いて,勇気をふるい起こして,まず最初にやってほしいことを3つだけまとめました。
犯罪と犯人は,身勝手な理由で,あなたの生命,身体,自由,財産,名誉,そして心を傷つけます。
万が一,そんな犯罪に巻き込まれてしまったときは,とにかく自分や自分の大切な人の安全を確保することを第1に考えてください。
当然のことではありますが,本当に重大な事件に巻き込まれて強いパニックになってしまったときほど,大原則に立ち返ることが必要です。
そして,被害者にできる最も現実的で効果的な安全確保の行動は,多くの場合,徹底的に「逃げる」ことだと覚えておいてください。
犯人や犯罪に勇気をもって立ち向かうことは,正しいことです。法律上も,正当防衛や緊急避難として被害者側の防衛行為は保護されます(違法でなくなります)。
しかし,その一方で,正面からの抵抗には大変な危険を伴います。まずは逃げることに集中するのが一番です。
犯罪や犯罪者から逃げたいときには,ためらわずに警察の保護を求めてください。被害届を出すかどうかなんて,後から考えればいいことです。
また,DVやストーカー犯罪など,継続的に発生して危険性が次第に高まる犯罪類型では,引っ越し等により,いったん相手から完全に身を隠すということを真剣に考える必要があります。
その決断が遅れることによって,取り返しのつかない事態になることもあります。
身の安全が確保できることを大前提として,次に大事なのは,できる限り早く犯罪と犯人に関する証拠を確保しておくことです。
今は携帯電話・スマートフォンをお持ちの方がほとんどだと思いますので,現場や犯人を写真に撮る,ボイスレコーダーで録音する,メールや着信履歴を保存しておくといったことができれば,直接的な証拠として非常に有効です。
現場での証拠確保や保存ができなかったときでも,後から少しでも早く証拠を確保するようにします。
たとえば,傷の写真を撮る,すぐに病院に行って診断書をもらう,あとで証言してくれそうな第三者(なるべく複数人)に相談しておく,といったことです。
自分で日記やメモを残すことも役に立ちますが,証拠としての価値は低くなります。
警察や弁護士に相談したり,被害届を出したりすることも,それ自体が大事な証拠のひとつです。
なお,警察に証拠提出するときは,必ず控えを手元に残してください。いったん被害者が証拠を警察に提出してしまうと,後から被害者自身がその証拠を見たり使ったりしたくても,原則として許されなくなります。
この点を誤解している方がほとんどですので,特に注意してください。
証拠集めに関するさらに具体的な方法については,
を参照してください。
被害者になったときに思い出してほしいことの3つめは,犯罪被害を受けた事実を誰かに相談する,ということです。
事件の内容にもよりますが,自分が受けた犯罪被害について他人に話すのは,簡単なことではありません。
特に,性犯罪やいじめなどの被害を語るのは,非常に勇気のいることです。
けれども,たった一人で犯罪被害という暴力に立ち向かおうとすれば,それがさらなる心のストレスになり,いずれあなたを押しつぶしてしまうかもしれません。
家族でも友人でも,誰か一人でいいので味方になってもらいましょう。
そして,できれば信頼できる専門家を探して,悩みを相談してください。
警察や検察でも,以前よりは被害者の支援に気を配るようになっています。
事案に応じて,電話での相談等を受け付けている被害者支援団体もあります。
とはいえ,やはり最初に考えてほしいのは,できるだけ早く犯罪被害者支援活動に取り組んでいる弁護士に相談することです。
被害者支援に関しては,複雑な法律上の制度がたくさんあります。
しかも,そのすべての制度を適切に理解し,かつ,被害者の代理人として使いこなすことができる法律専門家は,弁護士だけなのです。
行政書士や司法書士などの他の法律関係の資格では,犯罪被害者支援には対応できません。資格のない人では,なおさらです。
たとえ警察官やカウンセラーがどんなに親切でも,法的アドバイスは不正確になるでしょう。
もとより,信頼できるアドバイザーであれば,あなたを励まして,一日も早く弁護士の相談を受けるように勧めてくれるはずです。
早期に弁護士の法律相談を受けておくことで,自分のできること,すべきこと,これからのことが分かり,不安を軽くできます。
弁護士を代理人にするための具体的な方法や制度,相談費用の問題などについては,
◆被害者が弁護士を代理人にする場合の5つの方法
を参照してください。